野球の魅力と統計の関係

2020年7月20日

プロ野球ペーパーオーナーゲーム 目次

ルール解説

 
 

特殊性が生み出す野球の魅力

チームスポーツを分類する

日本人にとって、野球は最も身近にあるスポーツでしょう。テレビや新聞でも、学校でも、本やマンガやアニメやゲームの中にも、野球は日常生活のそこら中に存在する、ごく普通のスポーツです。しかし、実は野球は「ちょっと奇妙な」スポーツなのです。「大リーグ野球発見」(宇佐美陽 著)では、ボールを扱う競技を以下の3つに分類して比較することで、野球の特殊性を説明しています。

  1. サッカー・タイプ
  2. テニス・タイプ
  3. クリケット・タイプ(野球)

この比較はなかなか面白いので、表にまとめてみます。

表1 野球と他のスポーツの比較(大リーグ野球発見を参考に一部追記)

  1.サッカー・タイプ 2.テニス・タイプ 3.クリケット・タイプ

競技の例

サッカー、バスケット

テニス、バレーボール

野球

得点の方法

ボールをゴールに入れる

ボールを敵陣に落とす

プレイヤーが特定の場所に移動

ゲーム成立条件

決まった時間が経過

決まった得点を獲得

決まった回数を消化

プレーの連続性

ボールがフィールド外に出るか、得点するまで

得点するまで

打席ごと

攻撃と守備

一体

交互

完全分離

野球の特殊性1:得点までの流れ

野球がその他の球技と最も違う点は、「得点に直接関わるのは、ボールではなくプレイヤーの移動である」ことです。普通の球技なら、試合を見るとき目線の先には常にボールがあります。サッカーでもテニスでも、試合の流れの中心にあるのはボールです。しかし野球で試合の流れを形作るのはアウトカウントとランナーの変遷であり、ボールではありません。

野球の特殊性2:プレーの連続性

次に特徴的なのが、「プレーの連続性が短い」ことです。サッカーもテニスも、基本的にどちらかに得点が入るまで試合は連続して進行します。それに比べ野球の試合はまるで打席単位のコマ送りです。プレーの基本単位である打席は、投手vs.打者の対戦です。打席ごとに「対戦結果」が出て、そこでプレーは一旦途切れます。野球の面白いところは、柔道や卓球などの団体戦と異なり、個々の「対戦結果」は直接得点やチームの勝敗を決めるものではなく、試合の流れの中の一コマに過ぎない、という点です。「対戦結果」によってアウトカウントやランナーが進み、それらが積み重なって試合の流れとなり、その流れの中で初めて得点が生まれるのです。

上の二つの特徴のおかげで、野球は試合の流れがわかりやすく、観戦するのが楽しいスポーツです。試合の流れを作るのがアウトカウントとランナーなので、個々の状況は極めてデジタル的です。アウトカウントは3種類、ランナーの状況は8種類しかなく、極端に言えば試合の状況は3×8=24種類しかないのです。更に試合の進行も、投手vs.打者の対戦→状況が変わる→プレーは一旦停止→投手vs.打者の対戦・・・と、デジタル的です。つまり得点が入るまでの経緯が明快で、追いかけやすいのです。

例えばサッカーで、いつシュートチャンスが訪れるのか予測するのは非常に難しいし、決定機が来て盛り上がるのはほんの一瞬の出来事で、ちょっと目を離すとすぐ見逃してしまいます。野球なら得点圏にランナーがいる状態で四番打者に打順が回ると、一旦プレーが停止し、その後1分くらいかけて投手vs.打者の対戦を堪能できます。野球は試合の決定的な瞬間を見逃すことなく、今にも点が入りそうでドキドキする時間が長く続くという極めてエンターテイメント性の高いスポーツなのです。

野球の特殊性3:プレーの分業化

野球はチームスポーツの中でも、特にプレーの分業化と専門化が進んでいます。大きく分けても打者と走者、投手と野手の4種類の役割があり、それぞれ求められる能力や技術が全くといっていいほど違います。このため、一芸に秀でた、個性的なプレイヤーが多く活躍します。お化けフォークの奪三振王、精密なコントロールの技巧派投手、忍者のような二塁手、代走のスペシャリスト、選球眼抜群の出塁王、変態的な悪球打ちヒットメーカーなど、野球は魅力的なプレイヤーの宝庫です。均質な選手が見せる一体感や連動性とは違う、梁山泊に集うならず者集団のような魅力は、他のチームスポーツにはない、野球ならではのものでしょう。

野球の特殊性4:野球のリズム

ドラマ性が高いのも、野球の魅力です。ドラマを生み出しているのは、さまざまなリズムです。先発ローテーションのリズム、9人の打順がつくる攻撃のリズム、3アウトでイニングを終える守備のリズム、投球カウントのリズム・・・一見バラバラに見えるプレーはリズムを通して繋がり、1打席のドラマが、1イニングのドラマとなり、1試合9イニングのドラマ、そして1シーズン143試合の長編ドラマへと展開します。序盤の1打席が、最終回逆転劇の伏線だった・・・なんてドラマチックな展開が本当に起こるのが野球なのです。加えてこのドラマを面白くするために、野球のルールはさまざまな面で、常に勝つか負けるか予断を許さない、絶妙なゲームバランスとなるよう調整されています。例えば、リーグ優勝するようなチームでも4割は負けます。打者の打率は3割前後、盗塁阻止率も3割程度、3アウトまでに2人以上出塁できる確率が3割5分※1・・・これらは決して偶然ではなく、ゲームを面白くするためにルールの微調整を繰り返してきた歴史の結果なのです※2

野球と統計

野球と統計は相性抜群

野球は1チームあたり年間143試合、1287イニング、5000打席以上のプレーがあります。打席という明確なプレーの区切りがあり、かつサンプル数が多いので、非常に統計が取りやすいのです。また個々のプレー=打席は投手と打者の対戦という、個人競技の色合いが強いので、個々のプレイヤーに関する統計量を簡単に求めることができます。規定打席に到達した打者なら443打席、規定投球回に到達した投手なら、143イニング、429個のアウトを取るので、個人別でもサンプル数は十分あります。更に、試合の局面もアウトカウント3種類×ランナー8種類の24種類に分類できるので、試合の局面別の統計量も出せます。他のスポーツ、例えばサッカーでは、年間試合数はJリーグで34試合、個々の選手のプレーは常に他のプレーと連動しているので分離が難しい、試合の局面は無数にあり分類は困難、という具合に、野球ほど簡単には統計が取れません。

野球の「伝統的な」統計量とその問題点

そんな訳で野球では昔から色々な統計量が取られてきました。ちょっと例を挙げるだけでも、防御率、守備率、打率、出塁率などの率、勝数、セーブ数、奪三振数、刺殺数、補殺数、安打数、本塁打数、得点、打点、盗塁数などの計数値と、非常に沢山の種類があります。こういう伝統的な記録のタイトル争いや新記録への挑戦は楽しい話題ではありますが、記録とチームの勝利との関係はあいまいで、伝統的な記録だけで選手を評価することには色々と問題がありました。

例えば、首位打者とホームラン王のどっちが偉いのか?打率を本塁打数に換算するようなことはできないので、比較は簡単ではありません。例えば、選手Aが四球、Bがヒット、Cもヒットと続いて1点入った場合、打点が記録されるのはCだけ、というのは不公平ではないのか?A、Bの活躍も正しく評価されるべきです。また、奪三振数や打率など、注目度の高い記録ほどチーム成績への影響が大きい、という保証はないし、四球や犠飛など、あまり注目されない記録が、注目されないから重要ではないとは限りません。伝統的な記録だけでは見逃してしまうものがあるかもしれません。

なぜセイバーメトリクスが生まれたのか

奇妙で魅力的な野球をもっとよく知るために、統計解析を駆使して生まれたのがセイバーメトリクスです。セイバーメトリクスは様々な役割や個性を持つ野球選手たちが「どれだけチームに貢献したのか」を、感覚や印象に頼ることなく、統計解析の技術を使って公平かつ定量的に評価しようとする試みなのです。

プロ野球ペーパーオーナーゲームは、このセイバーメトリクスを駆使して、プレイヤーが考えた架空のチームの成績を再現(予測)します。セイバーメトリクスを使うことで、しぶとく四球を選ぶ繋ぎ役の打者や、ビハインドの場面でロングリリーフ登板する中継ぎ投手など、様々な個性や役割を持った選手たちがゲームの中で活躍できるようになります。

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