「勝利の方程式」を再現したい

2020年8月15日

プロ野球ペーパーオーナーゲーム 目次

ルール解説

 

「江夏の21球」で有名な広島カープの初優勝が1979年、この頃が日本におけるリリーフエースの黎明期でしょう。以来救援投手の重要性は年を追うごとに増していき、今やリリーフ陣の整備なくして優勝はありえない、と言っても過言でありません。

リリーフ投手というのは、ブラック企業顔負けなくらい過酷な仕事ではないかと思います。肉体的にも精神的にも相当キツい仕事です。見てるだけで胃が痛くなりそうなのに、投げている当の本人のプレッシャーは如何程のものなのでしょうか?

架空チームの編成で説明したように、プロ野球POGではシーズンを通して必要なイニング数を消化することがチームの成立条件となっています。先発、中継ぎ、抑えの区別は基本的にありません。そうなると、ゲーム上は先発型の投手ばかりを揃えてイニングを消化する方が有利となり、中継ぎ、抑えの投手を選ぶ理由がなくなってしまいます。

この状況はチーム編成を楽しむゲームとしては許容できません。辛い職場でチームを支える中継ぎ、抑え投手の労に報い、架空チームの編成の際に「勝利の方程式」を作りたくなるような仕掛けが必要です。ここでは、中継ぎ、抑え投手陣に対する追加評価について考えます。

セーブ、ホールドと勝率の関係

セーブ、ホールドが付くのは、僅差で勝利を収めたときです(ホールドは一概には言ませんが)。ということは、セーブ、ホールドが多いチームは、ピタゴラス勝率の予想よりも良い成績を残す可能性が高いのではないか?実際に確認してみました。2013~2017年NPB記録で、ピタゴラス勝率のずれを得点に換算した補正得点と、セーブ数、ホールド数との相関を調べてみました。補正得点\(ΔR\)は次式で定義します。

\(WIN\%=\frac{1}{1+(\frac{RA}{R+ΔR})^{1.68}}\)

\(ΔR=RA\dot{(\frac{WIN\%}{1-WIN\%})^{1/1.64}}-R\)

\(ΔR:補正得点\)

\(WIN\%:チームの勝率\)

\(R:チーム得点\)

\(RA:チーム失点\)

グラフを描くと以下のようになります。

セーブ数\(S\)と補正得点\(ΔR\)はソコソコ相関しており、相関係数は0.616です。セーブが付く=僅差での勝利ですから、当然の結果かもしれません。ホールドはさすがにセーブほど相関はなく相関係数は0.368でした。まあ、これも多少関係している・・・のでしょう。

セーブの多いチームほど僅差勝ちが多いためピタゴラス勝率の予想よりも良い成績を残す傾向がある、とは言えそうです。ただし、セーブが多いから僅差勝ちが多いのか?僅差勝ちが多いからセーブ数が増えるのか?どちらの因果関係にあるのかはわかりません。多分どっちもアリ、というのが本当のところでしょう。

リリーフポイントRPを作る

プロ野球POGでは、投手の勝利数や、打者の打点を架空チームの成績予測に使っていません。理由は勝利数や打点は試合の経過やチームメイトの影響が大きいので、個人の能力評価指標としては適当ではないからです。セーブ、ホールドも同様で、本来は架空チームの成績予想に使うべき指標ではないと思います。

しかし、そんな理屈よりも中継ぎ、抑え投手がゲーム上で評価されない方が(ゲームとして)大問題なので、セーブ数とホールド数を得点価値に換算し、チーム成績に反映させることを考えます。得点価値に換算したものをリリーフポイント\(RP\)と名付けます。その昔、定着せずに数年で消えてしまった同名の指標がありましたが、それとは無関係です。気にしない気にしない。

\(RP={\beta_S}(S-\bar{S})+{\beta_H}(H-\bar{H})\)

\(S\):チームのセーブ数

\(\bar{S}\):チームの平均セーブ数=0.243/試合(2013~2019NPB平均)

\(H\):チームのホールド数

\(\bar{H}\):チームの平均ホールド数=0.689/試合(2013~2019NPB平均)

\(\beta_S\)はセーブの得点価値、\(\beta_H\)はホールドの得点価値です。リリーフポイント\(RP\)を使ってチーム勝率を次式で求めます。

\(WIN\%=\frac{1}{1+{(\frac{RA}{R+RP})}^{1.64}}\)

前出の補正得点\(ΔR\)の式と同じ形になります。

重回帰分析からセーブ、ホールドの価値を求めると・・・

セーブ数\(S\)とホールド数\(H\)を説明変数とした補正得点\(ΔR\)の重回帰分析を行い、偏回帰係数として\(\beta_S\),\(\beta_H\)を求めることを考えます。EXCELの重回帰分析を使った結果を下に示します。

重回帰分析の結果

回帰式は十分有意ですが、決定係数は0.392と低いです。またホールドの影響はちょっと怪しいようです。ともあれ重回帰分析からは、次式になります。

\(\beta_S=3.178\)

\(\beta_H=0.245\)

\(RP=3.178S+0.245H-132.13\)

1セーブが3.178得点に相当するとなると、35セーブ上げた投手はそれだけで110得点に相当する貢献をしたことになり、打者でいえば上位5名に位置します。対してホールドは1ホールドあたり0.245得点。大活躍して40ホールドを上げても得点換算で10点にしかなりません。この結果をそのまま使うと抑え投手のゲーム内評価が高すぎてゲームバランスが崩れるし(抑え投手を沢山獲得して先発投手を減らした方が強いチームになる)、中継ぎ投手は評価低過ぎてゲーム戦略上獲る価値が無い、となります。

浅尾拓也と岩瀬仁紀からセーブ、ホールドの価値を考えると・・・

セイバーメトリクスは先入観を捨て、統計的に正しい評価をしようというアプローチですが、元々リリーフポイント\(RP\)を導入しようとした理由が「中継ぎ、抑えはしんどそうなのに、評価が低いのはあんまりだ」という極めて感情的なものです。そこで(統計的に正しい評価を求めるのではなく)心象的な評価を数値化する方針で考えます。

中継ぎで活躍した投手としてまず名前が挙がるのは、中継ぎで2011年にMVPを受賞した浅尾拓也でしょう。チームには守護神の岩瀬仁紀がいましたが、その岩瀬を抑えて浅尾拓也がMVPを獲ったので、37セーブ7ホールド(岩瀬)より10セーブ45ホールド(浅尾)の方が貢献度が上と(記者たちは)感じた、ということになります。

貢献度(防御得点)の計算として、次式を考えます。

\(DP={RA_R}/9\times{IP}-R+{\beta_S}S+{\beta_H}H\)

\(IP\):投球イニング数

\(R\):失点

\(S\):セーブ数

\(H\):ホールド数

\(RA_R\):代替投手の失点率

\(\beta_S\):セーブの得点価値

\(\beta_H\):ホールドの得点価値

\({RA_R}/9\times{IP}-R\)は、「代替(控え)選手と比べてどれくらい失点を減らしたか」を表します。代替選手の失点率\(RA_R\)ですが、セイバーメトリクス入門  脱常識で野球を科学する(P.168)によると代替選手は平均の1.34倍失点する(リリーフピッチャー)とのこと。2011年セントラルリーグの平均失点率が3.37なので、\(RA_R=3.37\times{1.34}=4.52\)とします。

浅尾拓也、岩瀬仁紀の2011年度成績は

\(IP_{Asao}=87_{1/3}, R_{Asao}=5, S_{Asao}=10, H_{Asao}=45\)、

\(IP_{Iwase}=48_{2/3}, R_{Iwase}=12, S_{Iwase}=37, H_{Iwase}=7\)

であり、浅尾が岩瀬を抑えてMVPを獲得したことから、

\(DP_{Asao}\geq{DP_{Iwase}}\)

という関係にあります。これから次の\(\beta_S\),\(\beta_H\)の関係式が導けます。

\(\beta_H\geq0.711\beta_S-0.695\)

この関係を守った範囲で、リリーフポイント\(RP\)の値が補正得点\(ΔR\)に近づくように\(\beta_S\),\(\beta_H\)を調整しました。計算には2013~2019年NPB12球団のチームデータを使用しました。

\(ΔR\)と\(RP\)の関係\((\beta_S=1.5,\beta_H=0.5)\)

上記グラフの近似直線の勾配をなるべく1に近づけたいところですが、\(\beta_S\),\(\beta_H\)を大きく取ると\(ΔR\)との絶対的なずれが大きくなるので、\(\beta_S=1.5\),\(\beta_H=0.5\)に留めています。(最小二乗法で調整すると\(\beta_S=1.624\),\(\beta_H=0.459\)となりましたが、わかりやすさ重視で\(\beta_S=1.5\),\(\beta_H=0.5\)としています)。

山口鉄也と阿部慎之助からセーブ、ホールドの価値を考えると・・・

2012年は巨人の山口鉄也が中継ぎで大活躍しましたが、MVPは阿部慎之助でした。2012年の阿部慎之助の打撃得点(代替選手との差)は62.6点。\(\beta_S=1.5\),\(\beta_H=0.5\)として計算した山口鉄也の防御得点\(DP\)は58.4点、\(\beta_S=1.8\),\(\beta_H=0.6\)とすると64.3点です。2012年のMVP選考結果と矛盾しないように考えると、やはり\(\beta_S=1.5\),\(\beta_H=0.5\)あたりが妥当なようです。

リリーフポイント\(RP\)を加えた勝率予測の検証

下図は\(\beta_S=1.5\),\(\beta_H=0.5\)としたときの\(RP\)補正を加えた勝率予測です。\(RP\)の補正を加えても大きな変化はなく、強いて言えば僅かに勝率予測が改善されます。今回の手法が正しいとは言えませんが、少なくとも導入して悪影響は無さそうです。要するにゲーム的に楽しくなるなら、導入したって構わないだろうってことです。

\(RP\)導入による選手評価の変化

リリーフポイント\(RP\)を加えた場合の、プロ野球ペーパーオーナーゲームでの投手の総合評価ランキング(2019年度)を出しました。抑え投手や中継ぎ投手の評価が上がり、評価上位25名には先発、中継ぎ、抑えと様々な投手がランクインするようになりました。これならゲームで中継ぎ、抑え投手を獲得するメリットが生まれ、先発投手ばかりを獲った方がゲーム上有利ということは無くなります。なおプロ野球ペーパーオーナーゲームでの代替選手の失点率は6.90と高めに設定しています。

表 投手の総合評価ランキング(2019年NPB)

  選手名 総合 防御点 RP 投球回 S H
1 松井 裕樹 102.5 39.5 63.0 69.7 38 12
2 増田 達至 87.7 39.2 48.5 69.7 30 7
3 大野 雄大 85.5 85.5 0.0 177.7 0 0
4 有原 航平 84.8 84.8 0.0 164.3 0 0
5 森 唯斗 81.4 25.4 56.0 53.0 35 7
6 益田 直也 77.0 30.5 46.5 58.7 27 12
7 山本 由伸 76.5 76.5 0.0 143.0 0 0
8 山﨑 康晃 75.3 28.3 47.0 60.0 30 4
9 今永 昇太 75.1 75.1 0.0 170.0 0 0
10 山口 俊 73.3 73.3 0.0 170.0 0 0
11 千賀 滉大 72.3 72.3 0.0 180.3 0 0
12 西 勇輝 70.1 70.1 0.0 172.3 0 0
13 藤川 球児 66.4 30.9 35.5 56.0 16 23
14 ドリス 65.9 32.4 33.5 55.3 19 10
15 山岡 泰輔 65.0 65.0 0.0 170.0 0 0
16 秋吉 亮 63.4 22.4 41.0 51.7 25 7
17 ジョンソン(C) 61.6 61.6 0.0 156.7 0 0
18 中川 皓太 61.4 28.9 32.5 64.7 16 17
19 高橋 礼 60.5 60.5 0.0 143.0 0 0
20 柳 裕也 57.6 57.6 0.0 170.7 0 0
21 ジョンソン(T) 57.4 37.4 20.0 58.7 0 40
22 ロドリゲス(D) 53.7 31.7 22.0 60.3 1 41
23 大瀬良 大地 53.7 53.7 0.0 173.3 0 0
24 フランスア 53.0 26.0 27.0 71.7 12 18
25 モイネロ 52.5 29.5 23.0 59.3 4 34

ちなみにリリーフポイント\(RP\)は勝率の計算において得点と同等に扱われるので、得点も失点も多い攻撃型のチームより、得点も失点も少ない守備型のチームの方がチーム勝率に対するリリーフポイント\(RP\)の影響が強く出ます。

という訳で、「勝利の方程式」をチーム編成の要素に加えるために、ゲームにリリーフポイント\(RP\)なるものを追加してみました。なおこれらはあくまでゲーム的演出で、真面目なセイバーメトリクスとは無関係です。あしからず。

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